小学生の時におばあちゃんにイタズラをしたことがある。

 妹と二人で、家にあった双眼鏡の目を当てるところに墨を塗った。
 おばあちゃんにあの山の上にきれいな木があるからのぞいてと双眼鏡を渡す。

「どこに?」と双眼鏡をのぞくおばあちゃん。
「ちゃんとくっつけてないと見えんで」とボクは背伸びをして双眼鏡を手で押した。

 おばあちゃんが双眼鏡をはずしたとき、ボクと妹はしてやったりと大笑いだ。
 おばあちゃんの両目の周りに丸く墨の輪っかがついている。

 笑い転げるボクらを不思議がるおばあちゃん。
 手鏡を渡すと、あらっまぁ! ワハハーと自分の顔におばあちゃんも大笑い。
 三人の腹を抱えた爆笑が続く。

 おばあちゃんが涙まで流して笑っている。と、思ったのだがなんだか様子が違う。
 よく見るとおばあちゃんはヒクヒクと泣いていた。
 ボクと妹の笑いが止まる。

「孫にいじめられて悲しい」と家の外に駆けだすおばあちゃん。
 ボクと妹は追いかけて謝ったがおばあちゃんは突っ伏したまま顔を上げない。
 ボクらは母からこっぴどくしかられた。

 あのように烈火のごとく怒った母は他に記憶がない。
 今から思えば当然だ。
 おばあちゃんからすればどんなにかわいい孫だったかしれない。

 その時ボクは大人になってもずっとおばあちゃんを大事にします、とへたくそなひらがなで誓約書のようなものを書いておばあちゃんに渡した覚えがある。

 そんなわけでもないが、大人になって就職先の和歌山から高知に帰郷するたびにおばあちゃんにわずかばかりのお小遣いをあげ、町までおいしいものを食べさせにいってあげた。

 何より喜んだのがボクの釣った鮎だったに違いない。
 鮎好きで、「名人の釣った鮎はうまいちや」と食べ終わったら皿の上に何も残さなかった。

 そんなおばあちゃんが一昨年の早春、穏やかに眠るように逝ってしまった。
 隠居部屋には、ボクの鮎釣りの写真が一枚飾りつけられていた。

 昨日、有田川でピカピカのきれいな鮎を釣り上げた時にふとそんなことを思い出した。
 この鮎をおばあさんに食べさせてあげたらさぞかし喜んだことだろう。
 でも、なぜこんなことを急に思い出したのだろう、と見上げたら目映いばかりの新緑の山が競りたっている。

 そうか、あのイタズラも確かこんな季節だったよな、と清流のど真ん中で腰まで浸かり、せせらぎを切っておとり鮎を早瀬にそっと送り込んだ。



有田川の鮎は焼くと淡泊な白身がほの甘く絶品ですニコニコ合格
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超燃える鮎友釣り もヨロシクグッド!

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