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 和歌山の隠れ川、貴志川で釣った鮎を持ってUさんを訪ねた。
 Uさんとは三年ぶりだ。
 八十を越えたと言うが、電話の声は元気だった。

 が、実際に会って驚いた。
 ギロリと睨むような眼光は失われていないのだが、頬がこけて小さくなっている。

「痩せたやろ、はは」
 とUさんは自分の頬に手を添えた。

「・・・・・・男前になったね」
 ボクはとっさにそう返した。

「そうか、ははは」
 とUさんかすれ声。

「まぁ上がれ」
 ボクは昨日貴志川で釣った鮎の入ったクーラーボックスを持って家の中に上がった。
 台所に奥さんが座っている。傍らに杖。数ヶ月前に足の骨折をし手術をしたそうだ。

 ボクが鮎をクーラーボックスから取り出すと二人とも相好を崩した。

「大きいやしてぇ」
 Uさんは目を剥いて鮎を両手のひらにのせた。

「少しずつ食べられるように小分けにして冷凍しときますから」
 ボクが言うと奥さんが何度もありがとうを繰り返す。

 Uさんと楽しい思い出話をした。
 ボクが二十代前半の頃、貴志川の淵に潜って二人して鮎を追い回した。

 鮎は簡単にタモ網に入らない。
 数時間ねばって一匹も取れず。

 ボクとUさんは会話も交わせないほど疲れ果て、温い河原の石にへばりついた。
 ゼーゼーと肩で息をする二人。

 いつの間にかあの頃のUさんの歳に追いついてしまった。

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 やわらかな西陽がレースのカーテンを射す。
 ボクはじゃあそろそろと腰を上げた。

「おい、また来いよ」
 とUさんは小さな歩幅でひょこひょことボクの後を門前までついてきた。

 ウンじゃあまた、と車に乗り込むボク。
 直立したUさんが目を細める。

 狭い団地の道をぐるりとまわると、もう一度Uさんの家の見える大通りに出た。
 Uさんはまだ立っているかもしれない、と思ったらなんと大通りの歩道まで歩いて出てきていた。

 あの歩幅でここまで歩いてくるとは。
 ボクは車を止めてウィンドを開けた。

「また来るから」
 と声を上げると、Uさんは肩で息をして「あぁ」と白い歯を見せた。

 それは、Uさんと水中めがねで鮎を追いかけ回して一匹も取れなかった、あの遠い夏の日の笑顔と同じだった。

 ボクもUさんのように長生きをしよう。
 Uさんお元気で。
 久しぶりにガバチャの釣った貴志川の鮎をご賞味ください。


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