JR三宮駅の近くにある神戸ラーメンに入った。

時間が早いのか客はまばらだ。

 

店員の女の子が私の隣でまかないのラーメンを食べている。

その後ろにいかにも酔った風の二人組がいた。

 

二人とも初老で、一人は長いマフラーを首から流した縞模様のスーツ、もう一人は茶髪でワッペンの付いた派手な革ジャンを着ていた。

 

とその革ジャン男が、突如女の子のそばに来て

「どうや日本のラーメンはうまいか」

と耳元にいやみったらしい絡み方をしてきた。

女の子は箸を止めて無視している。

 

革ジャンはしつこく

「何人(なにじん)? 何人(なにじん)?」

と女の子ににやけながらすり寄っている。

 

それを見て縞模様はふんぞりかえってガハハッと大笑だ。

あまりのしつこさに女の子はボソボソと何か答えた。

 

「えっ そうかベトナムか」

と茶髪男は思いついたように携帯電話を取り出しどこかにつないだ。

 

「お、もしもし ○○か。おれら今神戸のラーメン屋におるんや。ちょっと彼女に代わるからな。ヒヒヒ」

茶髪男は猿が鳴くような奇声をあげながら

「○○や」

と縞模様に目配せして大笑いした。

 

また女の子に向くと

「おいほら、ベトナム語で話てみろや」

茶髪男は携帯電話を嫌がる女の子の耳元に押しつけた。

 

むむっドンッ ガバチャのチョー不愉快にスイッチが入る。

「おいっ」

と立ち上がろうとしたら、カウンターの中から店員の若いにいちゃんが飛んできた。

にいちゃんは茶髪男から携帯電話をとると、私たちにはわからない言葉を電話に向かって大げさにまくしたてた。

 

そして一方的に切ると、茶髪男にカタコトで

「あ・り・がとう・ござぁます」と笑顔で携帯電話を返した。

 

笑顔の失せた茶髪男。

縞模様がにいちゃんを見ながらやおら立ち上がる。

 

私は何かあったら・・・と、

高倉健さんになったつもりで心の中の日本刀を抜いた。

若い店員のにいちゃんが直立でごくりと息を飲む。

 

と、なぜか立ち上がった縞模様の視線が泳いだ。

「おい・・・、出るか」

妙に勢いのない声が茶髪男の背後に落ちた。

 

私は縞模様の視線の先にあったカウンターの中に顔を振った。

そこには、中年の店長ら二人が腕組みをしたまま屹立し、グッと口を結んで茶髪と縞模様をにらみつけている。

二人組はバツが悪そうに背中を丸めて店を出た。

 

店内が少しホッと暖かくなった気がした。

 

若いにいちゃんは、ベトナムから一緒に働きに来た兄妹だろうか、

よく見ると女の子と顔が似ている。

 

にいちゃんは女の子に笑顔で何か言うとウンターの中に戻って行った。

女の子は、また何事もなかったようにラーメンを美味しそうにすすり始めた。

 

私は心の中の日本刀を鞘に収めた。

 

そして、タイトルにある鮎釣り師のひとり言を

割り箸をパチンッと割りながらつぶやいた。

 

「お前ら、今度何かあったらたたき切ってやるっ」