有田川のアマゴ釣りの解禁の日に私はトバシを見た。

 それは競り立った木々に囲まれた高い空の真ん中にポツンと浮かんでいた。

 

 トバシとは山から切り出した原木をある程度の長さに切りそろえて、その何本かをワイヤーで束ねて吊り下げ、木材を運搬するトラックの待つところまで空中移動させる装置のことである。

 私の故郷の高知ではそれをトバシと呼んでいた。

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 私がこのトバシを初めて見たのは2歳半ぐらいの時で、記憶史の一番最初に現れる。

 

 私は草に覆われた山道で母に背負われていた。

 と、首の後ろにチクッとした痛みを感じる。

 

 母は私を降ろして首の後ろを見ると

「ダニや」と驚いて取ってくれた。

 

 私は取るときに怖くて泣いたのを覚えている。

 泣き止まない私に母は気を紛らわせるように

 

「ほらトバシぞね」

 と言って山頂の方を指さした。

 

 見上げると高い空を材木の束が一定の速度で移動していた。

 その装置を動かしていたのが父の仕事だったらしい。

 

 二歳半というとちょうど今私の孫が同じ年齢である。

 こんな小さなときに……と私は孫を覗き込んだ。

 あどけない顔が返ってくる。

 

 孫の一番最初の記憶には何が残るのだろうか。

 

 もしも私だったら

 孫の記憶の中だけのことだとはいえ

 一番長く一緒に居られるような気がしてなんとなく嬉しい。

 

 そんなことを考えている自分は暇なのか、老いたのか……

 そろそろ鮎の準備でも始めましょう。

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