私が長い出張で疲れたこともあり、今回は家内だけが私の実家に帰ることとなった。
母から年金などの書類関係を整理して欲しいと頼まれたからだ。
母は去年の11月頃から足の調子が悪く
私が地元高知に帰って何度か医者に連れて行った。
診察の結果は、背骨がもろくなって腰のあたりがクラッシュしているとのことだ。
それで骨と骨の間にある椎間板が飛び出して、神経を突っついているのが痛さの原因だった。
母が手術や入院を固辞したため医者は痛み止めを出すにとどまった。
3か月ぐらいすればましになるかもしれない、ということにかけたのだ。
私は正月も長く帰省してずっと母のそばにいたが
足の痛みはかなりあるらしく、股関節脱臼のような歩き方をずっとしていた。
それが今回の家内の帰省で大変驚いたことがあった。
「あんた、馬路(私の実家)に着いたけどお母さん見当たらんで」
あんな足でどこへも行けるはずはない。
もうちょっとちゃんと家の中を探してみろや。
と私は言いながらも不安になった。
家内は家じゅうを探したけど母の姿はどこにも見つからないとのことだ。
まいったなこりゃ、と心配していたら家内からラインが入り
お母さん帰ってきたとのこと。
続けざまのラインを見て私は絶句した。
お母さんひとりでお墓に行ってたらしい。
えっ!
まさか、いくら何でもあの足で。
考えられん・・・ホンマかそれ?
私はたまらず電話をした。
母の話では、今朝起きたら急に足の痛みがましになっていたので
天気もいいし思い切って墓参りに行ってきた。
とのこと。
お墓は歩くと遠い。
途中きつい坂道もあり私たちはいつもは車で行っている。
私ががんばって歩いたとしても20分以上はかかるし
何よりお墓の手前の山道は急な上り坂で、84才の母が登るのは至難の業だ。
話を聞くと、母はその山道の坂を両膝をついた四つん這いでゆっくりと時間をかけて登ったとのこと。
線香やお供え物の入ったカバンを引きずりながらの匍匐前進・・・。
私は口をポカンとあけて母のその姿を想像した。
なんという執念。
妹にこのことを伝えると
まるでイノシシやんか。誰かに出くわしたらその人ビックリしたやろね。
と笑う始末である。
私の父が逝ったのが去年の11月10日。
その納骨の儀に、母は足が悪くて一人だけお墓に来られなかった。
その足では無理だと私や妹が止めたのだ。
それがよほど悔しくてお墓参りの機会を毎日今日こそと伺っていたのだろう。 願いを果たした母の電話の声は非常に明るかった。
家内が和歌山から作って持って行った
大好物のクリームシチューにありつけたこともさらに拍車をかけたのだろう。
はて、自分が死んだら家内はこの山道を這ってでも登って来るだろうか?
と、ひとり万が一もないことを考えて吹き出した。
だいたい
「あたし嫌やわ。こんな山奥の淋しいところに入るなんて」
といつも忌々しくぼやいているぐらいの家内がカゴに乗せても登ってくるはずがない(笑)
まぁ死んだ先の事はお互いどうでもええけどナ
と、ひとり言をつぶやきながら
和歌山の自宅に作り置いたクリームシチューをズズズとすすってはまた口元を緩めた( *´艸`)
今軽トラが熱い!