鮎釣り師ガバチャのひとり言

釣りあげた鮎で仲間と酒を飲む   これ人生のユートピア!

    ガバチャの小説

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     黒江の通りはまるで鋸の歯のようにギザギザになっている。家が道に平行ではなく斜めに建っており庭や駐車場が三角形なのだ。



    「なんか家が全部斜めに建ってますね?」
     浩也は姉の背に問いかけた。



    「ああ、これね。結局どうしてかはわからないみたいですよ」
     専門家の研究でも結局わからないとのことだ。



     大八車を止めやすいように斜めに車庫をつくったという説や、この辺りがもともと干潟で潮によく浸かったので潮が引きやすいようなつくりにしただとか、この鋸状の通りには諸説あるらしい。
     姉が説明を続ける内、座席に埋もれていた勇一も体を浮かして家並みを眺めた。



    「ここや、着いたで」
     大きなガラスの引き戸に鈴木民芸品と白字で書かれていた。



     ガラス戸越しに大きな壺や置物が所狭しと並んでいる。車はそのまま行き過ぎて、家の裏の空き地に止まった。



    「ユウコォ」
     車から降りると、姉は家の裏の二階に向かって声を上げた。二階のサッシが開いて若い女が顔を覗かせた。



    「早かったね」


     短髪でふっくらした顔の女が覗いた。
     度のきつそうな黒縁の眼鏡を掛けている。姉は慣れた様子で勝手口から入った。浩也と勇一も後に続いた。
     中に入ると黒っぽい作務衣を着た白髪男が居た。白髪は天然なのか縮れている。背は高くないが、二重顎に合ったふくよかな体躯で足下は素足だ。


    「おおリエちゃんかすっかり大人になったなあ」
     男は目尻に皺を寄せ笑顔をつくったが、直ぐに口元を結んだ。



    「お父さんがほんまに大変なことになったなあ。何でも手伝えることがあったら遠慮無くユウコに言うてよ」
     そう言って男は居間に三人を招いた。


     ユウコがコーヒーとお菓子を持って入ってくる。姉が早速古文書の件を切り出した。



     白髪男は鼈甲の眼鏡を外すと、浩也の差し出した古文書に顔を近づけじっと見入った。

    「そうやなあ三十分ほど時間くれるかな。ユウコ、名手の資料館にでも連れてっておやり」
     男は顔を上げるとまた眼鏡を掛けた。



     三人は、ユウコの案内で近くの酒造りの資料館に行くことにした。



     細い路地を五分程歩くと資料館に着いた。

    「温故伝承館」と言う看板が掛かっている。



     ユウコの説明では、創業百三十年の「名手酒造店」が、実際精米所として使っていたところを資料館に改造したとのことだった。



     中にはいると酒製造器具や道具が所狭しと展示され、大型の精米機や酒槽がそのままの状態で残っていた。酒販用ポスターや蔵人の生活用具も展示されており、当時の生活文化がうかがえる。



     勇一は、一人早足で資料館を見て回ると外に出て行った。



     しばらくして浩也ら三人が資料館を出ると、なんと勇一は向かいの酒造店のテーブルで、冷や酒をあおっていた。



    「あんたなあ」
     姉の剣幕にも勇一は苦笑いだ。ユウコは目を丸くして複雑な表情だ。ほろ酔い加減で店員の女性と知り合いのように話している。



    「なあ、親父にこの黒牛買うていっちゃろうや」
     勇一がビール瓶ほどの大きさの酒瓶を掲げた。
     黒牛とは名手酒造の代表酒である。
     姉は急に怒った顔を緩めると、黒牛を一本購入した。隆三が無類の酒好きだったのだろう。



     骨董品屋に戻ると宝の地図の解読がほぼ終わっていた。



     白髪男は、四人を座敷に上げて説明を始めた。
     ほろ酔いの勇一は、三人の後ろで肘をついて壁にもたれた。



     古文書は江戸時代のものだった。



     寛政十一年神無月の夜に、つむじ風剛右衛門(かぜのこうえもん)が自らの財宝を海に投げ入れ隠匿したと書かれてあった。古文書が正しければ、財宝は言い伝えられている友が島ではなく海の底に眠っていることになる。



    「古文書に記載された金銀宝を時価に換算すると数十億円にも上ります」



    「すっ、数十億円!」
     と、勇一が壁にもたれた身を起こした。



    「ええ、でも財宝を投げ入れた場所ははっきりとはわかりませんよ」
     白髪男は古文書と自分の書いた説明の用紙をみんなの前に広げた。



     古文書には簡単な図が記されてあるが、消えかかって判然としない。



     見ようによっては、和歌山の海岸線を上空から見たような形にも見える。特に、向かって左に伸びた天狗の鼻のような図とその先にある大小の半円二つ。



    「この天狗の鼻は和泉山地から連なった加太岬で、その先の大小の半円二つは間違いなく友が島でしょう」
     白髪男は確信めいていった。



    「そしたら天狗の鼻の下に平行に伸びる線は紀ノ川ですか」
     浩也が言うと白髪男は頷いた。姉のリエも覗き込む。



     その紀ノ川の直ぐ下には十円玉程の円が書かれており、円の真下にはそれとほぼ同じ大きさの三角形が書かれてある。



     白髪男は、三角形の横に添えられた文字を指さした。



    「神無月に虎の伏す、そう書かれています」



     白髪男はみんなの顔を見渡した。



     いつの間にか勇一が前のめりで首を突き出している。





    ガバチャのひとり言

     黒江の町並みは写真のような感じで家が斜めに建ってます。ボクはこれが両側にずっと続くような町並みを探したのですがなかなか見あたりませんでした。
     通りすがりのおばさんに訊いたら今は少なくなったとのこと。
     当時はなんらかの理由で合理的だったのでしょう。

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     和歌山県海南市黒江にある名手酒造店。この向かいに温故伝承館があります。
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     温故伝承館の中を撮影したものです。昔酒を造っていた様子がそのまま残されてます。
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     また、温故伝承館の中には、昔の生活用品などもたくさん展示されています。
     こちらは、みしん。

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     これは、女性の化粧品? なのでしょうか。
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     三人はしばらく黙った。
     近所の子供らが大声を上げながらはしゃいで走っていく。
     勇一はトボトボと花壇の方に戻ってまた腰を下ろした。



    「あの、笹のついた竹っていうのは?」
     浩也が口を開いた。



    「昔、浅場で餌の海老を捕る時にやりよったこともあるけんど今頃やるもんはおらん。あと考えられるんは海底の位置出しやな」
     勇一はうつむいたまま答えた。



    「海底の位置出し?」



    「ああ、海に潜る所の目印として沈めとくんや」



    「・・・・・・」



    「で、お前その場所どこかわかったんか?」
     勇一がゆっくりと顔を上げて訊いた。



    「それが、全然解りません」
     浩也は古文書を広げた。女が寄ってきて覗き込む。



    「アネキ、学校出ちょったらなんて書いてるかわからんのか?」
     言って勇一はまたうつむいた。やはり、この女は勇一の姉らしい。



     姉は怪訝そうな顔で古文書に目を落とした。



    「なんなんやろ、これ?」



    「それがさっぱりわからないのです」
     と浩也は姉の手に古文書を渡した。



     古文書には小さな三角や丸、大きな半円などがミミズの這った文字に囲まれるように記されている。



    「なあアネキ、知り合いとかでそんなんに詳しそうなのおれへんのか」
     と勇一が顔を上げた。



    「うん、黒江の鈴木ならなんとかなるかもしんないわ」
     姉は独り言のように言った。



    「それって友達かあ?」
     勇一は煙草を取り出した。



    「高校の時の同級生よ。実家が民芸品店で、お父さんは結構名の知れた鑑定士やって言ってたわ」



    「そ、その方にぜひ」
     と、浩也が言うと姉はしっかりと頷いた。



    「早いほうがいいんでしょう。今からちょっと連絡取ってみるわ」
     姉は家の中に戻っていった。



     勇一は浩也に古文書を手渡すと、煙草に火をつけた。
     未だ未成年のはずだが何の躊躇もない。浩也は黙ったまま目をそらすように庭を見渡した。


     剪定されたつげの所々から枝が飛び出ている。いつも隆三が剪定していたのかもしれない。勇一がそんなことをすることもないのだろう。



     足下にいくつか煙草の吸い殻が落ちているのは勇一のものに違いない。思う端から、勇一が煙草の吸い殻をポイ捨てした。落ちていたものと同じ吸い殻だ。



    「アネキのやつ遅せーなー」
     と勇一が独り言を言う。



     姉が携帯を持ったまま出てきた。



    「今からでもいいって言ってるけど?」
    「えっ今からか」
     と返す勇一の横で、浩也は首を縦に振った。



    「じゃあ、今から行くわ。そうやなあ半時間ぐらいやから二時前ぐらいになると思うわ」

     そう言って、姉は携帯をたたむと浩也と勇一の顔を交互に見た。



    「あたしは鍵取ってくるから。勇一、出るまえに灯油缶だけ倉庫に運んどいてや」
     勇一は、素直にんーとだけ答えて家の裏に消えた。



    支度が出来た姉は黒の軽四を家の前に出した。



     助手席に勇一が、後部座席に浩也が乗り込んだ。ボンネットにピンクの猫の縫いぐるみが置かれ、ルームミラーからは派手なウサギのアクセサリーが吊られている。甘い香水の匂いが鼻をついた。

     姉の泣き疲れた顔と車内の鮮やかさとのギャップが、隆三の死の突発性を表しているようだ。勇一が煙草を取り出すと、「禁煙やで」と姉が釘を刺す。



     勇一は無言で煙草をしまうと、CDデッキのボタンをさわり始めた。CDが入っていなかったのか、今度はCDケースをしきりに捲っている。



    「アネキってろくなCDないなあ」
     そう言って、勇一は選んだ一枚をデッキに挿入した。突然エレキの大音響が鳴った。

     とっさに姉の手が伸びる。

    「あんたなー、お客さんおるんやからじっとしときいや」
     勇一はふてくされて座席に深く身をもたせた。


     車は、密集した家に挟まれたすれ違いも出来ないほど狭い道をすいすいと進んだ。踏切を渡ると道が大きくなった。



    「お前高校どこや?」
     勇一が振り返って訊く。



    「K校です」
    「すげーお前かしこいんやなー」
    「あそこって毎年東大に何人も通ってるんでしょう」
     姉がデッキの音量を下げながら言った。



    「来年受験なんでしょう?」
    「ええ、でも・・・・・・受けません」
     姉は小さな声で、「そう」とだけ言った。



    「K校やったら高卒だけでも凄いやんか。なんぼでも働き口あんで」
     勇一が言うと、姉もこっくりと頷いた。
     三人は暫し黙った。



     浩也はポケットから古文書を取り出すとまた眺めた。



     母と隆三もこの古文書を何度も眺めたことだろう。そして解らずに、自分たちと同じように誰かを訪ねたのだ。父も同じく解読に奔走したはずだ。



     今、自分も同じ事を繰り返している。それも、あれほど嫌いだった隆三の息子らと一緒に。



     この一枚の古文書は、これまでも人を替えながら同じ行いをさせてきたに違いない。誰一人として最後までたどり着かせることなく、ただ災いだけもたらすために。



     つむじ風剛右衛門の呪い、本当にそんなことがあるはずはない。
     父も母も偶然不幸に巻き込まれたのだ。いや、母は生きている。友が島での大規模な捜索は行われたが、それ以外の場所に立ち寄って母はどこかで取り残されているはずだ。

     浩也はそう信じて古文書を見た。
     黒江は和歌山市南隣の海南市にある。

     車は、国体のために整備された広い道路を進み海南市に入った。毛見のトンネルを抜けると、黒江の漆器と書かれた大きな看板が現れる。


     「おっ黒江って書いちゃらあっしょ。その下なんて読むんや?」
     勇一の問に「シッキ」と姉が答えた。

    「シッキぃ? 何やねそれ」
     首を傾げる勇一に姉は即答できず少し間を置いて、「ほら、お椀とかよ」と言った。

     浩也は漆器を知っていたが、確かに漆器を勇一に言葉で理解させることは困難だ。

    「へー、お椀のことシッキって言うんか。知らんかったっしょ」
     勇一はお椀と聞いて興味を削がれたのか、CDケースをめくり始めた。

     道が突然狭くなり、車はスピードを緩めて路地を這うように進んだ。
     黒江は時代を感じさせる古い町並みだ。古くは熊野霊山への入り口と見なされ熊野古道として親しまれた。また、江戸時代には漆器の街として栄え全国に黒江の名が知られている。

     「ここの漆器はもともとは根来寺からきたんやんか」
     姉がさらりと言った。

    「えっおじいちゃんとこの」

    「そうよ、あんた小さい頃おじいちゃんから何回も聞かされてたやん」

    「そうやったっけなー」

     紀ノ川沿いにある根来寺は鉄砲伝来でよく知られている。この寺を豊臣秀吉が焼き討ちした時、多くの漆器職人が全国に逃げ散らばったとのことだ。

    「輪島塗かて根来から逃げ延びた職人が始めたんや言うてたやん」
    「へー、アネキくわしいんやな」
     勇一は選んだCDを入れ替えると、座席に深くもたれた。

     黒江の通りは、格子戸が張り付いた低い家が並び白い提灯が所々に吊されていた。車は歩くほどの速度になった。

    「もうすぐか?」

     勇一の問いに姉はウンとだけ答えて、ハンドルにしがみつくように前屈みで慎重に車を進めた。

     窓外を眺めるうち、浩也は変なことに気がついた。



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    ガバチャのひとり言

     ロケハンで和歌山市の南隣にある海南市の黒江に行ってきました。
     黒江は歴史の街、漆器の街、酒造りの街、ボクの大好きな街です。

     造り酒屋「黒牛」で有名な名手酒造店で温故伝承館を見て休憩しました。
     店員の女性の方と会話が弾み、ボクはいつになく? 饒舌に。

     振る舞われたのは写真の「甘酒」です。
     原付なので酒は飲めないです、というと「製造過程でアルコールの発生する前のですから大丈夫」とのこと。

     へ~、ホントかな、と。

     んじゃ、とチビリチビリ。
     甘~い。こりゃいけるワ。
     と、しばし黒江の旅情にひたりました。

     明日より、高知の両親を紀南に旅行に連れてってあげますのでアップロードお休みします。
     再開は、火曜日ぐらい、かな
    ニコニコ



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      その日の夕方、勇一の祖母はたまたま港の倉庫に忘れ物をして取りに行った。

     そこで、隆三と友子が連れだって隆栄丸に乗り込もうとするところに出会した。
     隆三は5、6メートルもの長さの笹竹を船に積むところだった。



     不審に思った祖母は、駆け寄ってそんな大きな笹竹を持ってこんな夕方からどこに行くのだと訊いた。



     だが、いくら訊いても二人は微笑むだけで答えない。
     祖母は、夜の海は危険だから止めてくれと何度も頼んだ。



    「どうしても行くんなら、勇一を呼んでくるわしょ」
     と、祖母はたまらず声を上げた。



    「気遣いないわしょ。コーエマの呪いさえなけりゃ極楽の生活さしちゃらあ」
     隆三は高笑いすると船のエンジンを駆けた。



     祖母は、隆三の発したコーエマと言う意味不明の言葉が頭に引っかかった。
     それっきり二人は帰ってこなかった。



     祖母は隆三のコーエマの呪いと言う言葉を思い出し、隆三が若い女に狂って気でも触れたに違いないと嘆いた。そんな話を誰にも言うことができず、一人孫の勇一にだけ打ち明けた。



     勇一もコーエマという不可思議な言葉に首をひねった。祖母の聞き間違えではないのかと、何度も訊き直した。



     祖母は、ひょっとしたら「コーエム」だったかもしれないだとか、あるいは「怖(こ)ええもん」と言ったのかもしれないと狼狽えるばかりだ。



     勇一は、コーエマという言葉を図書館にまで行って調べたが、該当するものはなかった。友人にインターネットで調べてもらってもわからなかった。



     大きな笹竹を船に積み込んでいた隆三と友子は一体何をしようとしていたのか。



     近所の酒屋で缶ビールを二箱も買い込んだばかりの親父が自殺などするはずがない。 コーエマという言葉に親父が逝った原因が隠されている。勇一は、そう思って調べを続けたが手がかりすら得られなかったと言うことだ。



    「さっきお前がつむじ風剛右衛門(かぜのこうえもん)って言うたやろ、ワイにはつむじかぜのコーエマってはっきり聞こえたんやしょ」



    「そうだったんですか」



     勇一も父が自殺ではないと信じて調べ続けていた。見かけは荒くれだが、親を想う気持ちは一緒なのだ。と、浩也は勇一のイメージが少しだけ変わった。



    「勇一ちょっと手伝ってよ」
     玄関から女が出てきた。この前、浩也にフリースを渡した女だった。女は浩也に気がつくと慌てて会釈した。



    「アネキ、親父は宝探しやったみたいやで」
     勇一は鼻で笑ったが目は潤んでいる。



    「宝探し?」
     勇一からアネキと呼ばれる女が怪訝そうな顔で近寄ってきた。



     浩也が話を始めると、女は口元を歪めじっと耳を傾けた。全て聞き終えると女は踵を返した勇一を見た。



    「でも、もう終わった話やしょ」
     背中を向けたまま勇一はポツリと言って玄関に進んだ。



    「ボクはっ、ボクのお母さんはまだ終わってません」
     浩也が声を上げる。勇一が一瞬背中を向けたまま止まった。



    「もう、生きてるわけないっしょ」
     勇一はそう言うとまた足を踏み出した。



     とっさに女が勇一に駆け寄って回り込む。



     パンッ!
     乾いた音とともに勇一の巨体が揺らいだ。



    「あんた、なんでいくつになっても人の気持ちがわからんねっ」
     女は手を挙げたまま勇一を怖い目でにらみつけた。
     勇一が叩かれた頬を片手で押さえたままうつむく。



    「行ってやりなさい。この人を連れて精一杯のことをしてやりなさいっ」



     女の甲高い声が響く。
     勇一は頬を押さえたまま丸めた背中を揺すった。それは、頷いているようでもあり泣いているようでもあった。



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    ガバチャのひとり言

     以前、漁船を持っている知人に何度か紀伊水道に連れていってもらった。
     もちろん海釣りにだ。

     釣りなのに、釣り竿を持たず船縁からテグス糸を手でもって垂らす。
     すると、デカイ鯖が釣れる。ハリがいくつかついているので一度に2匹とか連れるとなかなか上がってこない。

     ボクは船に弱いのでいつも酔い止めの薬を飲んでいた。ある時その薬を飲むのを忘れていた。



     さぁ釣るぞと始めてまもなく、ボクはおぇ~と吐いてしまった。きたないがボクの吐いたものが撒き餌みたいになって、魚がじゃんじゃん寄ってくる。

     ボクは船酔いで何度も吐いた。それでも魚はわんさか釣れる。
     途中で「大丈夫か」と船頭さんに気遣われたが、「新しい釣法をあみだしましたと」強がった。

     が、ヘロヘロできっとボクの黒目はひっくり返って白目だけになっていたと思う。
     写真は和歌山市加太港。
     
     友が島への観光船の船着き場です。
     淡島神社寄りの方から北を望んでます。


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     浩也は、電車に乗り込んでからも、古びた紙に書かれてある文字や図を解読しようとした。ミミズの這ったような文字は古典の教科書で見たような文字だ。
     目を凝らすと「つむじ風」と「金銀宝」という文字だけが読み取れる。



     帰宅した浩也はパソコンに向い、インターネットの検索サイトに「つむじ風」と「金銀宝」の文字を入力した。



     すると「つむじ風剛右衛門(つむじかぜのこうえもん)の埋蔵金」という項目が検索された。



     それによると、つむじ風剛右衛門(つむじかぜのこうえもん)とは江戸時代中期の人物で表の顔は廻船問屋、裏の顔は海賊と言い伝えられ詳しいことはわかっていない。晩年、隠し持っていた財宝を友が島に埋めたとされていた。



     これまで盗掘を試みた者は、ことごとくつむじ風剛右衛門(つむじかぜのこうえもん)の呪いによって謎の死を遂げ、数十億円もの金銀宝は未だ手つかずのまま眠っているとのことだ。



     そこまで読んだ浩也はパソコンを離れ呆然とした。
     浩也にある推測が起こった。



     この古い紙は宝のありかを示した古文書に違いない。



     父は何らかのきっかけでこの古文書を手に入れ、宝の隠された場所に行く途中で不幸にあった



     その時、母が父の動きや古文書の存在を知っていたのかどうかはわからないが、今度は母が古文書を手にした。
     スナック勤めを始めてから客の貴志隆三と言う男と知り合った。



     隆三が潜水士だということを知った母は、隆三に近づき宝探しを持ちかけた。



     そして、その最中に不幸にあった。



     つむじ風剛右衛門(つむじかぜのこうえもん)の呪い、そんな非科学的なことがあるものかと思う一方で、浩也に言いようのない不安が広がった。

     母が何処に何をしに行ったのかは、古文書に書かれてある内容がわかれば判然とする。 そして、それは十五年前の父の足取りとも一致するはずだ。



     翌日の放課後、浩也は再び貴志勇一を訪ねた。



     浩也はどんなことをしてでも、勇一の同意を取り付ける決意だった。確かめるには、船がなければ母の足取りはつかめない。



     玄関先に立つ浩也を見て勇一は顔色を変えた。



    「ま、またお前かぁ」



    「相談したいことがあります」



    「なんやとおっ」



     この前の長髪とは打って変わって、短い茶髪にした勇一はいつか見た隆三とそっくりだった。  



     浩也は複雑な気持ちを払拭するように話を切り出した。



    「あの日お母さんとあなたのお父さんが何をしに行ってたのかわったんです」



    「なっ、なんてぇ!」



     さすがに、勇一は驚いた顔で庭に出てきた。



    「海の中に埋まった江戸時代の埋蔵金を探しに行っていたのです」



    「はぁ、埋蔵金?」



     勇一は表情を一転させると笑い声を上げた。押し黙る浩也の前で、勇一はひとしきり笑うと煙草に火をつけた。



    「その場所にぼくを連れて行ってほしいのです」



    「はぁ」



    「私の母は見つかっていません。とにかくその場所に行きたいのです」



    「お前年いくつや」



    「高校二年です」



    「お前テレビかマンガの見過ぎちやうか。だいたい海賊の小判なんて」 



     勇一は吸いかけた煙草を投げ捨てると、家の中に入ろうとした。



    「本当なんです。つむじ風剛右衛門(かぜのこうえもん)って海賊が・・・・・・」



     浩也が古文書を振りかざすと勇一の足がぴたりと止まった。



    「お前今なんて言った」



     勇一は口をあんぐりと開けて振り向くと近寄ってきた。



    「はい?」



    「お前今つむじかぜのなんとかって、その後なんて言った?」
     勇一はゆるり接近すると浩也を見下ろした。タバコの臭いが浩也の鼻を刺す。



    「こ、剛右衛門(こうえもん)です」
     浩也はしかめっ面で答えた。



    「んん、コウエモン、コーエマ。こ・う・え・も・ん。こーえま」
     勇一は腕組みをして一人思案を始めた。



     浩也には、勇一の仕草が何を意味するのかはわからなかったが、とにかく興味を持ってくれて良かったと思った。



    「おい、お前その話ワイにもっとちゃんと話せ」



     浩也は、古文書を見せながらインターネットで調べたことを話した。勇一が食い入るような目で聞き入る。



    「で、こん紙どこにあったんやしょ?」
     さっきまでの剣幕が別人のようだ。



    「母のフリースのポケットです」
     勇一は腕組みをして黙ると、何か考え込むように空に目を泳がせた。



     何かある、と浩也は勇一の言葉を待った。しばらくして腕組みをほどいた勇一の目は意外なほど弱かった。



    「実はな、ワイのお婆が出航する前に二人に会ってるんやしょ」



    「えっ、それはどこで!」
     浩也はうつむいた勇一の顔を食い入るようにのぞき込んだ。



    「船着き場や。まあ偶々出会したんやけどな」



    「母とはどんなことをしゃべったんですか?」



     浩也が詰め寄ると、勇一は花壇の縁に腰を下ろした。




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    ガバチャのひとり言

     和歌山市加太の町並み。以前このあたりにラーメン屋があったんだよな。
     今はつぶれたのかありませんが・・。

     面食いの・・・いゃ、麺食いのガバチャとしてはぜひ一度食べておきたかった。残念!!

     この先の角を曲がって少し進むと一挙に紀淡海峡が開けます。そしてその先の峠に国民休暇村があってそこから見下ろす景色が絶景かな絶景かな。
     眼下に友が島が横たわり四国も遠望できます。

     夜は車でのデートスポットになります。
     ボクも若い頃よく行きました。
     
     えっ、誰とって? 
     それはミステリーにしておきましょう。
     サスペンスじゃなくてミステリーねべーっだ!


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     加太の実家を訪れるのは久しぶりだった。
     大きくなった浩也を見て祖父は目をしばたたかせた。ニキビひとつ無い色白の肌、短髪に濃い眉毛が精悍に浩也の顔を引き締めている。祖母が目を潤ませて浩也を居間に招き入れた。



    「今から話すことは誰にも内緒にしとけっしょ」
     祖父は腰を降ろすなり、神妙な面持ちで口を開いた。



    「亮作は海で死んだんやしょ」
     浩也の眉がピクリと動いた。母からは仕事場での事故と聞かされていた。



    「それも、雑賀崎の沖や」
     えっ! と浩也は声を上げた。



     母の居なくなった場所と同じだ。祖父は懐かしむような表情で話しを始めた。 



     祖父は、亮作が高校を卒業する時、漁師を継がせたいと数百万円もする釣り船を亮作に買い与えた。だが、亮作は漁師になることを拒んだ。漁師では金持ちにはなれないと言うのが理由だった。



     亮作は、これからは企業だと言って、紀ノ川河口に林立する住友金属に入社した。亮作は間もなく林重彦と言う男と出会う。



     林は九州の長崎県出身で、炭坑の閉山に伴い和歌山に出てきたとのことだった。この頃は各地で炭坑の閉山が相次ぎ、全国で炭鉱労働者の鉄工業への転職が起こっていた。林も多くの仲間と共に和歌山住金に転職した一人であった。



     釣り好きの林は、亮作が釣り船を持っていることを知ると、釣りに連れて行ってくれと頼み始めた。亮作はあまり乗り気ではなかったが、林があまりしつこく頼むので一度加太の沖に釣りに連れて行った。



     林はたいそう喜び、お礼をしたいからと言って松江にある自宅に亮作を招いた。林の自宅は通称九州人街と呼ばれる地区で、九州から住友金属に働きに来た人たちが集まって住んでいるところだった。



     林家を訪れると、そこに亮作と同じ年頃の綺麗な女が居た。林の一人娘友子である。亮作は友子に一目惚れをした。



     翌日になると、今度は亮作の方から林に釣りに行くことを誘った。亮作の目的は友子にあった。亮作と林は釣りを通して懇意になった。そして、亮作は思惑通り友子と親交を深め二人は結婚した。



     浩也も生まれ三年ほど平穏な結婚生活が続いたある日、亮作から潜水士を紹介してくれと言う相談が祖父にあった。



     祖父は亮作が密漁でもするのではないのかと心配し、目的を訪ねた。亮作は密漁ではないと笑い飛ばしたが、結局目的は答えなかった。相談口調が終始楽しそうなので悪いことではないだろうと、祖父は親しい潜水士を紹介した。



     それが亮作の亡くなる一月ほど前のことだった。



     丁度その頃、スーパーマーケットで祖父母は林重彦と出会した。亮作と釣りに行っていますかと尋ねると、相変わらず休みごとに行っているとのことで日常に変化はない様子だった。



     数日後、亮作の釣り船が無人のまま雑賀崎の沖で発見された。
     捜索から一週間後、埋め立て護岸のテトラポットに漂着して引っかかった亮作の遺体が発見された。死因は溺死。



     昼間には目撃情報がないことから、夜出航して転落したのではないのかと言うことだった。十一月と言えば、チヌの夜釣りの時期ではある。が、不思議なことに釣り道具は家に置かれたままであった。そして、相方の林には声を掛けていなかったのである。
     亮作は酒が好きだったので、船上で深酒でもして誤ったのかとも思われたが、体内からアルコール類は検出されなかった。



     亮作は何のために暗い夜に一人船を出したのか? 



     ひとつだけ気にかかるものが、亮作の着ていたジャンパーのポケットから見つかった。



     ホームセンターなどで売っているチャッカマンである。レバーを引くとライターのような炎が出る道具。普通はポケットなどに携帯するはずのないものだ。



     水上警察も不思議がっていたが何のためのものなのかはわからなかった。少なくとも船上で必要なものではない。友子に訊いても全く見覚えのないものであった。



     結局チャッカマンは謎のままだったが、何かを解く鍵に鳴るほどの発見物にはならなかった。検死の結果は転落による溺死とされた。



     祖父は釣りではないと思った。直ぐに潜水士のことを思い出し話を訊きに行った。
     潜水士は亮作が死んだことを聞いてたいそう驚いた。祖父の問に潜水士は沈痛な面持ちで口を開いた。



     亮作からの相談とはなんと宝探しであった。



     潜水士は、江戸時代の海賊が隠した数十億円もの金銀宝を海底から引き上げて欲しいと亮作に頼まれた。
     亮作は根拠となる宝の地図らしきものを持っていたという。
     潜水士は、あまりにも話が馬鹿らしいので直ぐに断った。亮作は何度も頼みに来たが潜水士は断り通したという。



     祖父は、自分の息子が宝探しの最中に不幸にあったなどと思いたくはなかった。また、世間に知られたくはなかった。



     潜水士には、宝探しの話は誰にも言わずに忘れて欲しいと頼みこんだ。祖父は、その後の警察の事情聴取でも宝探しの話は一切出さなかった。



     祖父はそこまで話すと項垂れた。



    「おじいちゃんなあ、浩也から電話もろうた時に亮作の事思い出してなあ、状況が似てるなあって思うたんやしょ。まさか友子さんまで同じ事をしてどうにかなったんやないのかと。でもおじいちゃん、そん時は浩也には言わんほうがええのやないかと思うたんや。後でおばあと話したら浩也ももう子供やないし、ワイらの知ってることは全部話ししといたらどうやろかということになってなあ」
     と祖父は目を潤ませた。



    「うん、おじいちゃん、おばあちゃん話してくれてありがとう」
     浩也が頭を下げると、祖母はハンカチで目を覆った。



     浩也は母のフリースにあった古い紙を思い出した。
     祖父母の家を出ると、浩也はまたその紙を取り出した。



     はらりと黄色の付箋が風に舞う。浩也は慌てて付箋を拾った。さっき取り出した時には気付かなかったがポケットの中には付箋も入っていたのだ。



     拾い上げた付箋に浩也の目は釘付けになった。



     「十一月五日神無月四時、十一月十一日朝六時」



     付箋にしっかりとボールペンで書かれてあるのは間違いなく母の字。
     浩也は手が小刻みに震えた。



     十一月五日は、母が居なくなった日だった。





    ガバチャのひとり言

     3月3日の雛流しで有名な和歌山市加太の淡島神社。
     小舟にたくさんの人形を乗せて海に流すあれです。
     毎年テレビでやりますよね。
     ボクもいろんな神社に行ったけど、この神社が背筋ゾクゾクのインパクトナンバーワンでした。
     おびただしい人形に、後ずさり~あせる


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     さらに境内の奥に進むと、文面には表現出来ないモノがてんこ盛りに陳列されていて・・・コンプレックスでその夜寝付き悪かったッス。
     淡島さんは安産の神様でもあるそうで。
     神社というよりかは、ミニ・テーマパークとでも言ったほうがよいのでは。
     そんな淡島神社をみなさんも一度訪ねてみませんか。

     写真、もういっちょう。ヒェ~叫び


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    超燃える鮎友釣り もヨロシクグッド!

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